今回の渡西は3月23日出発、4月10日帰国という20日間の日程でした。バルセローナで2泊し、バルセローナ〜ヘレスへの寝台特急(タルゴ)で1泊、ヘレスで15泊という行程です。

 娘との二人旅。珍道中なるや、意外や意外…。非常に役に立った!!何しろひどい方向音痴の私は地図を片手に…いえ両手に四苦八苦+通行人なら誰でも捕まえて道を尋ねるという有様。
ところが、そんな私を尻目に彼女は初めての所以外は頭にインプット。「そこの門を曲がって、あそこのマーケットの次の道だったよ。」とか、何度も通った道は「あそことあそこに繋がってるから、こっちを通ったらもっと早いよ。」等とぬかす!
「うそー。」と言いながら半信半疑でついて行くと、「本当だ!」「ねっ!言ったでしょ!」と得意顔。またまた弱みを握られてしまったのです。
さて今回のヘレスはと言うと、昨年10月にクルシージョで教えに来てくれたエンリケ・パントハの一言でした。  「ヘレスのセマナサンタはいいよ。是非おいでよ!」
とヘレス出身の彼は熱心に誘って?くれたのです。セビージャにしようと思っていたのに、ヘレスの“セマナサンタ”を知らない私は「じゃ、今回はヘレスにしよう。」と決め込んだのです。
 キリストの聖週間である“セマナサンタ”は毎年3月下旬〜4月上旬に行われます。各教会から年に一度キリストやマリア様の像が町を練り歩くのです。お神輿のような物ですから、像の下には大勢の人が入って担いでいるわけです。ほとんど外が見えない状況なので、決められた合図や号令で市街地の狭く曲がりくねった路地を歩きます。数メートル行っては一休み、ブツブツ呪文の様なお祈りを繰り返します。教会を夕方出て、夜中の2時頃また教会に戻るのですが、その間7〜8時間は飲まず食わずです。キリストの苦しみを共有しようと素足の人もいます。三角錐に目だけくり抜いた頭巾帽子を被った子供から大人までが先頭をきり、最後の方には賑やかな楽団まで行列が続きます。
 私の目的はこの行列では有りません。町の角々でバルコニーからキリストやマリア像に向かって歌いかける歌“サエタ”を聴くことでした。もちろん無伴奏。歌い手は自分の持つエネルギーの全てをキリストやマリア様に捧げます。作り物の人形(失礼)なのですが、その時ばかりは魂が蘇ったかのように感じられるほどです。サエタはフラメンコの原点の様に思えるのです。日曜日から金曜日まで連日連夜、あちこちの教会がタイムスケジュールと経路に沿って練り歩くので2日目に一度、追っかけをしたのですが、はるか遠くで歌声が聞こえてくる程度でした。4日目もついて歩いたのですが、途中でリタイヤ…。一度も聴けずでした。
 最終日、フィンクルで歌ってくれたアギラールの奥さん登場。「今日の夕方5時と夜の1時半には必ずここにいなさいね。サエタが聴けるわよ。」と。「あー、ここにいて聴けるなら楽だわ。」と、ずーっと居た私達。夕方、奥さんパキの両親や子供達、親戚が多勢やって来ました。そのうち、また別の家族が?わーっ。見るからにヒターノです。「この人まで聴きにきたの?」と私。ところが「アーーーイーーー」と発声練習が始まりました。…と言う事はここから、この家から歌うのー?とあまりの驚きに口はあんぐり。さぁ、それじゃあと気ぃ遣いぃの私は「水をどうぞ。」とかコーヒーを入れたりし始めました。
 でも、外はぽつぽつと雨。雨が降ったらもちろん中止。後は祈るしかない。おじいちゃん、おばあちゃん、もちろんパキもだんだん暗くなって来た。雨の為に中止になったらサエタが聴けない。キリスト・マリア像が見られない…いえいえ違います。アギラールとパキの12歳になる三女クラウディアが、あのとんがり頭巾ちゃんで行列に参加するのを一目見ようと待っていたのです。家の前を通りかかったら必ず合図をするとの事、きっと名誉な事なのでしょう。皆正装しています。白いスカートをはいていた私は何となく雰囲気を察して黒のスカートに着替えました。とたんにおばあちゃんから「綺麗ね!」と誉めて頂きました。
さて、気になる雨も止んでいよいよ始まりそうです。パキがソワソワし始めました。1時間半遅れの出発でした。わーっ、大変!私の友人達がティオペペ見学から帰って来ないのです。先ほど電話で「ここから歌うよー。」とは伝えたのですが、「雨で中止でしょ。」と言っていました。早く帰って来て−!!もう始まりそうでした。
 4人の歌い手が交代で歌います。なんとラッキー!こんな間近で聴けるなんて!!ビデオを握り締めながらも涙が流れました。娘も疲れてシエスタをしていたのを起こして、しっかり聴かせました。
「凄く良かった。」と言ってくれたのでホッとした私です。もちろん夜中もしっかり聴きました。友人達も何とか1人、2人の歌を聴けて大感激していました。「セマナサンタって何?クルシージョと思っていたのよ。」と、Kさん。「エンリケを頼ってヘレスに来たけど、逢う事も出来なくてどうしよう…と思っていたけれど、阿藤さんのお陰で良い目したわ!」と喜ぶFさん。いえいえ、私のお陰ではありません。今日はアギラールのお陰でした。ホテルを予約していたのですが、旅行社とのミスで6泊しか出来ず、アギラールの貸しピソにお世話になったのです。偶然とは言え、なんとも素晴らしい体験が出来、大喜びした私達でした。
他の話、いっぱい有ります。次につづく…!